前回は、儒教の経典である『大学』から「本」と「末」、すなわち思考の仕事と作業の仕事の順序を意識したいということをお伝えしました。

 何かの物事にあたったときに、それが本なのか末なのかを考えさせられる機会は、振り返ってみると意外と多くあります。そこで私が思い出すことは、同じく『大学』の一節である「物に本末あり、事に終始あり。先後する所を知ればすなわち道に近し」です。本日は、この節を私たちの現場の話題を少し抽象化しつつ、解説を試みたいと思います。

 「物に本末あり」というのは、しばしば拙稿にも書いているように、何かを考えたり、取り組んだりするときには、「目的を意識し枝葉末節にとらわれすぎないように」ということを伝えています。先般も社内で話していたのですが、私たちの事業領域の中から何かの物やサービスをお客様にご提供する機会が多くあります(どの企業にもあると思います)。その時に気をつけなければいけないのは、物やサービスを提供することが目的ではないということです。あくまでも「お客様のお困りごとの解決に資する」ということが、目的であり、「本」ということになります。

 次に、「事に終始あり」です。私たちが普段生きていると、時間は永遠にあり続けるというように感じてしまいますが、実際には誕生もあれば終わりもあります。その間に私たちにはあらゆる仕事が押し寄せてきます。私たちは、得てして目についたものから手をつけたり、取り組みやすいものから手をつけてしまったりすることがあります。しかしながら、本当に大切なのは、自分の都合ではなく、相手の立場にたって考えみたり、将来を見通して足元を考えてみたりして、先にやるべきことを考えることです。何事にも終わりと始めがあり、その一瞬一瞬を大切に生きようということを私たちに説いてくれています。

 最後に「先後する所を知ればすなわち道に近し」は、前述の本末や終始をしっかりと考え、本来の目的を見失わずに順序を考えていけば、大道を生きることができるという教えです。現実には、私も含めて多くの人たちが「何を先にして何を後にするか」ということを頭で理解できていても、目的によって順位を柔軟に入れ替えるということは、難しいものです。だからこそ、後世にわたってこのように書物として語り継がれており、変化の激しい現代に私たちが心すべきことだといえるのではないでしょうか。

Man hiking up mountain trail close-up of leather hiking boot created with generative AI

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