ファクトを直視しない社長のはなし

加藤滋樹のつぶやき(人づくり×マーケティング)

前回より、経営戦略とファクト、すなわち事実との関係性について述べております。この小売店の例では、経営者が現場のファクトを理解していないため、結果としてどんな販売手法をとっても、現場の人たちが欲しいと思えない、誇りの持てない商品を売ろうとしており、出だしからつまずいた状態でスタートしていました。

もう一つ、私が実際に見た例をお話しします。

ある社長は、「これからは顧客満足が最重要だ」と社員に訴え、「お客様の側に居続け、身近な相談相手となりなさい」と命じました。コロナ禍で売上が低迷するなか、顧客に寄り添い、腰を据えて信頼を得、長期的視野で売上を確保するというのは、まさに美しい正論です。

しかし、一方でこの社長は一ヶ月の売上が落ちることは許さず、ノルマ必達のマネジメントは変えませんでした。そのため、営業の現場では顧客満足を追求する意識が必要なことがわかっていても、今のノルマ達成に必死で未来まで気が回せないというファクトがありました。また、ジレンマに対する解決策を求められても、「頑張ればなんとかなる」という精神論を振りかざすのみで、精神論だけでは動けない現場のファクトからも無視していました。

本来でれば自社の実力や全体のリソースの限界を逃げずに直視した上での戦略が必要です。この社長は「これが必要だ」という正論だけではなく、正論だけでは動かない現場のファクトをしっかりと受け止め、実行できる戦略を熟考する必要がありました。

たとえば、10年後に勝ちたいのなら、お客様に寄り添い長期的な信頼という果実を得ることを優先し、短期的には売上減を受け入れる度量も必要です。また、短期の売上増も長期の信頼獲得もともに得たいのならば、新たな突破口を発見するために、現場の社員やお客様との真摯な対話に直接乗り出し、イノベーションの糸口を掴もうと自身も懸命に努力し、困難に直面する社員に背中を見せることも、一つの手段となります。

前回の雑貨小売店や今回の経営者のことを客観的に見ると「ああ、間違っているな」と素直に思うことができます。しかし、実際に経営の現場に出てみると、意外に私たちも同じようなことを行っていないでしょうか。

精神論だけではなくファクトを踏まえ、「これからどうするか」を考えることが戦略が機能する肝となります。次回は今までの実例を振り返りながら、起こりうるファクトを分解して考えてみたいと思います。
 

関連記事一覧