多面的な事実をつかむ
2月18日は二十四節気でいうところの雨水でした。本来は「降る雪が雨に変わり雪解けが始まる」という季節のことですが、ここ最近は寒さが戻り、名古屋では雪模様など冷え込む日が続いております。
さて、今までに経営戦略とファクトとの関係性について、「現場の社員さんが欲しいと思わない商品をEC販売しようとする経営者」の例、「長期の信頼を確保することを命じつつも短期ノルマを営業スタッフに課し、両立の道を示さない経営者」の例と二つ上げてきました。その中からわかることは、あらゆる視座からのファクト、すなわち多面的事実に着目する必要性です。そこで、本日は事実の変遷を三つの階層に分けて考えながら、その解説をしていきます。
事実の三階層のうち、一つ目は、自分の過去の経験にもとづくものです。私も注意しなければならないことですが、「これはこういうことだ」というパターン学習のような経験や思い込みを通して見てしまう事実です。二つ目は一つ目の過去の経験や思い込みに縛られずに俯瞰して事実。そして三つ目は、その俯瞰の集合体、多様な人たちが、それぞれの立場からあらゆる感情を踏まえて見ている多面的な事実です。
経営戦略の面では、この三つ目の方法で捉える事実を把握する力を養うことが必要です。経営者が見ている事実と、現場で見えている事実は違いますし、その事実を咀嚼する能力も違います。各々の解釈を集めることでようやく見えてくるのが多面的事実です。当社の例を振り返ってみても、私は「会社全体としてどう最適化するか」という視点で物事を見ますが、社員は「目の前の仕事をどう最適化するか」という視点で物事を見ていることが多々あります。
たとえば、「売上が下がっている」という事実に直面した場合、経営者は「このままではまずい。客層を広げる必要がある」と見るのに対し、従業員は「今の人数では、これが限界」と見てる可能性があります。このように、リーダーと現場の考えていることや感じていることなど、各々の温度感を無視した戦略は必ず失敗します。
前々回の拙稿の冒頭で取り上げた孫氏の兵法の有名なことば、「彼を知り、己を知れば百戦危うからず」。ここでは相手「彼」を知ることよりも、実は自社である「己」を知ることが困難であると申し上げました。その困難を解決する手段として、私たちは常に多面的に事実を捉える能力を磨いていく必要があると考えています。