人生を充実させていく三つの柱
今回も引き続き松下幸之助が重要性を説いた「素直」について取り上げたいと思います。
松下翁は、94年の生涯にわたって「素直な心になりましょう」と言い続けました。
東洋の歴史を紐解いていくと、素直の「素」の文字がたびたび出てきます。素は東洋思想や学問、修行における重要な要素の一つでした。「素行する」や「素心を貴ぶ」などの表現があります。また、素は「元」や「白」といった意味にも用いられてきました。
『論語』には、「絵の事は素を後にす」とあります。「絵を描くとき、さまざまな色を塗ったあと、最後に白粉を用いて色彩を鮮明にして浮き立たせるように、人間もさまざまな教養を積んだのち礼を学べば、教養が引き立って人格が完成する」という意味です。絵画は、様々な色彩の絵の具を使います。しかしながら最後は素、すなわちいかに生地を生かすかということに苦心します。そのために白を用います。人間においても同じ事で、いろいろなものを付け加えるのではなく、結局のところその人間の素質を活き活きと見い出していくことが重要です。それはきっと、自己の欲望のままに醜くむき出しにするものではありません。凛して美しく映えるように磨き出さなければなりません。その過程が学問や教養、修養であり、生まれた素質を磨き出すことになります。
そして、その素がそのまま現れることを素直といいます。松下翁は「素直な心になりましょう。素直な心はあなたを強く正しく聡明にいたします」というメッセージを自身が主宰した『PHP』の誌面において発信し続けました。松下翁がいう「素直な心」とは、私心に邪なく、曇りのない心であり、一つのことにとらわれずに、物事をあるがままに見ようとする心です。
人と人とが関係性を構築していくときに、お互いが素直な心持ちになれば、していいこと、してはならないことの区別が明らかになっていきます。また、善道、非道の判断も誤ることなく、何をすべきかも自ずからわかってくるというように、あらゆる物事に関して適切な判断のもとで自信を持った実行を行えるようになっていきます。すなわち、本当の素直な心とは先般取り上げた自然の理法にとらわれずに従い、こだわらずとも考え、おもねらずに行動することといえます。
松下翁は「素直な心」を発端として「誠実」や「熱意」の重要性を度々述べていました。
これこそが人生を充実させていく三つの柱といえるのではないでしょうか。
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