アイディアを生み出す 「何も知らないというところから出発」

加藤滋樹のつぶやき(人づくり×マーケティング)

今回も「無知の知」とソクラテスについて書いていきます。

 ソクラテスは「くだらない考えを否定しない」ということを大切にしていました。
 昨今、コーチングを生かしたコミュニケーションが重視されていますが、その源流はソクラテスの問答法が原点といえます。誰に対しても「あなたは⚪︎⚪︎すべきである」とは決して言わない。相手の思考に寄り添って質問を投げかけていき、出てきたアイディアを讃え、発言と行動を勇気づけながら最終的に相手が自律的に気づいていくように促すことが問答法の大切な要素です。

 また、ソクラテスの興味を一言でいうと「普遍的なこと」といえます。たとえば、「生きるとはなにか」「美しいこととはなにか?」などです。変化が激しい現代において、時代の波に揺さぶられず、本質をつかんでいくためには、根本に目を背けずに考え続けることをやめないことが不可欠です。そこで生きてくることが、このソクラテスの無知の知であり、「自分は何も知らない」という謙虚な自己認識です。「経験している」「答えが分かっている」「知っている」と思って思考停止をしてしまっては、たちまち、自分たちから大切なものがこぼれ落ちてしまいます。

 たとえば、自分たちのチームが考えた新しい商品やサービスの販売戦略を決めていくミーティングで、まぁまぁ良いプランが出てきたとします。そこで、「このマーケティング手法でいいか」と妥協してしまうのか、もしくは「もっとよいプランがあるはずだ」と粘ることができるかどうかが、本当の意味でお客様に伝わるかどうかの瀬戸際であったりすることがままあります。   「知っている」「これでいいはずだ」「昔はこれで上手くいった」と考えることを終了してしまっては、お客様にメッセージが届くことは決してありません。「これ以上無い」という最善のプランを考えることは、大変苦痛をともなうミーティングのようにもみえますが、リーダーが明るい雰囲気を構築し、自由闊達に意見を出し合い、ロジカルシンキングやマインドマップなどを用いて、知的な好奇心を滋樹していけば、本来は自分の存在意義を再確認できるエキサイティングな時間でもあるはずです。

 何も知らないという原点から出発し、粘り続けて考えた末に、「このプランは素晴らしい」という納得できるアイディアに辿り着くことができる。そんな結晶が生まれる瞬間を祝うことができることは、無知の知を自認する私たちの特権でもあります。

関連記事一覧