相手の矛盾や前提の誤りを見える化し、真理に辿り着くには

加藤滋樹のつぶやき(人づくり×マーケティング)

暑い日が続いております。お休みの日の昼過ぎに6歳の次男と出かけていた公園も、めっきり人が見られなくなりました。熱中症などに気をつけたいものです。

 前回、コーチングの原点としてソクラテスの問答法を紹介しました。今回からは、その問答法について、私たちの仕事の現場での応用を考えてみたいと思います。
 問答法とは、対話を重ねる相手の矛盾や前提の誤りを見える化していき、その結果として真理に辿り着いていく手法です。たとえば、権力志向が強い社員との問答の場合だと、次のようになります。

 相手「世の中で一番大切なものは権力だ。権力が手に入れば、何でもできる」
 自分「何でもというと?」
 相手「多くの人を従わせることができ、どこでもVIP扱いされる」
 自分「なるほど。つまり、人を従わせたり、人より優遇されたりすると、何でもできるのですか?」
 相手「それだけではない。お金もたくさん入る。なんでも買えるし、なんでもできる」
 自分「でも、権力で手に入らないものもあるのではないですか?健康な体、信頼できる友人、あたたかい家族は権力で手にいれることはできますか?」
 相手「権力に群がってくる人たちはいるだろうね」
 自分「その人達は、あなたが大切に思う、そしてあなたのことを大切に思ってくれる。そんな大事な人たちだと言い切れますか?」
 相手「・・・」

 結果的に「権力があれば、何でもできる」という命題を、この問答法での流れは完全に覆しています。問いを立て、それに答えるという対話にもとづいており、この流れによって批判的な思いをめぐらせ、相手の考えの課題を浮き彫りにしています。しかしながらこの目的は、ただ単に「相手を打ち負かしてやりたい」ということではなく、対話の相手のために矛盾を浮き彫りにしながら、より良い仮説を見つけていくところにあります。

 生み出された答えである真理は、たとえ自分で気づくことになったとしても、自らの力だけで生み出すのは難しいものです。したがって、この問答法は相手の真理が生まれてくる援助そのものであるがゆえに、ソクラテスの母の職業にもちなんで「助産術」とも呼ばれています。

 社内やお客様とのミーティングなどにおいて、主張が錯綜してしまい、このままでは結論が生まれないという経験はないでしょうか。このようなときにこの問答法は役に立ちます。次回は、実際の現場での展開を考えていきます。

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