日に新たな生成発展を目指していく
寒露の季節となりました。草木に冷たい露が降りる頃という意味だそうです。秋の長雨が終わり、秋らしい晴天が続いています。
さて、先週は松下幸之助が、晩年の座右の銘としていた「青春とは心の若さである。信念と希望にあふれ、勇気にみちて日に新たな活動をつづけるかぎり、青春は永遠にその人のものである」という詩についてとりあげました。私がこの中でいちばん好きな言葉は、「日に新た」です。
「日に新た」ということばは、中国の古典である『大学』の中にあります。もともとは、中国・商時代の湯王が言い出した言葉で、「今日なら今日という日は、天地開闢以来はじめて訪れた日である。それも貧乏人にも王様にも、みな平等にやってくる。そんな大事な一日だから、もっとも有意義に過ごさなければならない。そのためには、今日の行いは昨日より新しくよくなり、明日の行いは今日よりもさらに新しくなるように修養に心がけるべきである」という意味だそうです。湯王は、これを顔を洗う盤に彫り付け、毎朝、自戒したといいます。
松下幸之助は、現場の責任者に対して、時々、場合によっては夜遅くに電話を入れていたそうです。「何か変わったことはないか」と尋ねた際に「特に変わったことはありません」と応えると、「変わったことがないとはどういうことだ。一日あれば何でも必ず変わる。木一本でも、日々生成発展する。変わったことがないとはどういうことだ」と強く叱責したエピソードが残っているそうです。
その場に常時いることができない松下幸之助としては、どんなに些細なことでも何かあれば報告してもらいたいと思うことは当然です。そのことに加えて、常々伝えていた自然観、人間観の中心的な命題である、「万物は絶えず生成発展する」からこそ、組織も日に新たな生成発展を目指していくことを、往時の現場責任者に強く伝えたかったのではないかと思います。
過去の考え方やこれまでのやり方にとらわれることなく、日に新たな視点でものを考え、実行を図っていくことが肝要です。しかしながら、大切だとはわかっていても、日々の忙しさにかまけてなかなか上手くいかないのも人間です。ついつい惰性に流され、現状維持に流されてしまうのも、人間らしい一面ではあります。だからこそ、「このままではいけない、日に新たでなければならない」とたえず自分を戒め、励ましていく必要があります。
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