暦の上では寒露。草木に冷たい露が降り、秋の長雨が終わり実の季節が深まっていくという意味だそうです。

さて、人づくりとマーケティングの視点でのコーチングとして、前回までは「耳と目と心で聴くこと」や「存在・変化・成果の観点からの承認」について、技術と考え方の両方から取り上げてきました。そして、今回からは私自身の経験したことやご相談をいただいた方から伺ったことの中から、「上手く行かなかった事例」を振り返りつつ、どう進めていったら相手のモチベーションを主体的に

引き出すコーチングができるかについて、より詳しく考えていきます。

 「部下のモチベーションが下がっているよ」
 「話しかけてくる回数が最近減った」
 「成果を褒めても、最近は喜んでいない」

このような経験は本稿をお読みの方でしたら誰にでもあるのではないでしょうか。もちろん、私にも経験があります。そして、そのような様子をみたリーダーとしては「どのような質問をして相手のやる気を引き出そうか」と一生懸命考えていくと思います。しかし、この一生懸命さが間違った方向に進んでしまうと、「部下のモチベーションをさらに悪化させてしまう」という悪循環に陥ってしまいます。

間違った方向というのは、どのような方向でしょうか。それは、「良い質問をして自分が部下を引っ張っていかなければならない」というリーダーの思い込みです。たとえば、「君はアイディアが豊富だから新規商品の開発にチャレンジしたらどうだい?」「ITスキルが豊富だからこの部署の技術サポートはどう?」といったような質問です。
 これらの質問は上司からしてみると相手のためを思って良い質問をしている気持ちになっていますが、現実としては、これは質問ではなく「提案」なのです。商品開発や技術サポートという答えを用意してしまっており、それを提案しています。

以前、コーチングの原点として「その人が必要とする答えは、全てその人の中にある」ということを書きました。たとえ本人のためであったとしても、この考え方を忘れて質問の技術を活用しても上手くいきません。リーダーは「いろいろ質問しているのに、部下は何も考えていない」と思い、相手は「自分の考え方を押し付けられている」と感じるようになり、両者にとって良くない方向へと突き進んでしまうのです。

次回は、その改善策として「会話をリードしない質問」について考えていきます。

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